猫の腎臓病(特に慢性腎臓病:CKD)は、腎臓の機能が徐々に低下していく病気で、高齢猫に非常に多くみられます。
早期発見と継続的なケアが寿命や生活の質に大きな影響を与えるため、飼い主が知っておくべき重要な病気です。
原因
猫の腎臓病の主な原因は以下の通りです。
- 加齢による自然な腎機能低下
- 遺伝的な要因
- 高血圧
- 脱水の慢性化
- 感染症(細菌性腎盂腎炎 など)
- 尿路結石や腎臓への負担
- 中毒(ユリ・エチレングリコールなど)
多くの場合「はっきりした原因なしに年齢とともに進行」が最も一般的です。
よく見られる症状
腎臓は体内の老廃物を濾過し水分やミネラルバランスを管理する臓器。機能が落ちると次のような症状が現れます。
- 水をたくさん飲む
- 尿の量が増える
- 食欲低下
- 体重減少
- 毛づやの悪化
- 嘔吐
- 口臭(アンモニア臭)
- ぐったりして元気がない
- 貧血
- 下痢または便秘
軽度だと気づきにくいため、定期検査が非常に重要です。
診断方法
動物病院では以下の検査を組み合わせて診断します。
- 血液検査(BUN・クレアチニン・SDMA)
- 尿検査(尿比重、タンパク尿)
- エコー検査
- 血圧測定
特にSDMAは早期発見に有効とされています。
検査値の読み方
以下は「SDMA・クレアチニン・BUN・尿比重」など、
猫の腎臓病でよく出てくる検査値の読み方を、できるだけわかりやすく説明したものです。
SDMA(エスディーエムエー)
【何を見る検査?】
腎臓がどれくらい働けているかを最も早く教えてくれる数値。
【特徴】
- 腎臓の働きが 40%くらい落ちた段階から上昇
- 早期発見にとても役立つ
- 脱水の影響を受けにくい(=正確)
【目安】
- 正常:だいたい 18 以下
- 18〜25:腎臓が少し弱り始めている可能性
- 25 以上:腎臓病が疑われる
※数値は病院により参考値が少し違います。
クレアチニン(CRE・CREA)
【何を見る検査?】
血液中の老廃物。腎臓が悪くなると体にたまり増える。
【特徴】
- 腎臓の働きが 75%以上失われないと上がらない
- =SDMAより遅れて上昇する
【目安(IRISステージ参考)】
- 1.6 以下:正常〜ステージ1
- 1.6〜2.8:ステージ2
- 2.9〜5.0:ステージ3
- 5.0 以上:ステージ4
脱水があると上がって見えることがあるので、単体で判断しないことが大事。
BUN(血中尿素窒素)
【何を見る検査?】
タンパク質の代謝でできる老廃物。腎臓が弱ると増える。
【特徴】
- 腎臓病で上がる
- 脱水や胃腸トラブルでも上がる → 他の検査とセットで判断
【目安】
- 軽度上昇:脱水の場合も多い
- 高めが続く:腎臓の濾過能力が低下
尿比重(USG)
【何を見る検査?】
腎臓が“尿を濃くする能力”を持っているか。
【特徴】
腎臓病があると尿が薄くなり、比重が下がる。
【目安】
- 1.035 以上:濃い
- 1.030 前後:やや薄い
- 1.020 以下:薄い(腎臓の濃縮能力が低下の可能性)
※水をたくさん飲んだ日は自然と薄くなることも。
リン(P)
【何を見る検査?】
腎臓がリンを排出できなくなると増える。
【特徴】
- 腎臓病が進むと上がりやすい
- 高いリンは体調悪化の原因にもなるため要管理
【対策】
SDMAとクレアチニンはセットで見ると正確
- SDMAが先に上がる → 早期発見に強い
- クレアチニンが上がる → 進行している可能性が高い
2つの数値を一緒に見ると、腎臓の状態がより正確にわかります。
重要ポイント
- SDMA:一番早く腎臓の異変に気づく
- クレアチニン:腎臓の働きがかなり落ちると上がる
- BUN:脱水でも上がるので単独判断はNG
- 尿比重:腎臓が尿を濃くできるかを見る
- リン:腎臓病が進むと上がりやすく、治療の重要ポイント
治療法
腎臓病は完治が困難ですが、進行を遅らせて生活の質を保つ治療が中心になります。
食事療法
最も効果が高いとされる治療
腎臓病用療法食への切り替えが推奨されます。
薬物療法
症状や進行度に応じて
- 血圧を下げる薬
- リン吸着剤
- 吐き気止め
- 胃腸保護剤
- 造血剤
などが使用されます。
点滴(皮下補液)
自宅でできる皮下補液は脱水予防や老廃物の排出を助けます。
在宅ケア
腎臓病の猫の生活を支えるポイント
- 新鮮な水を複数箇所に置く
- ウェットフードを取り入れて水分を増やす
- 食欲が落ちたら嗜好性の高いフードを試す
- 定期的に体重をチェック
- ストレスを減らす生活環境
以下に、国際腎臓学会(IRIS)のステージ分類をもとにした「猫の腎臓病ステージ別の治療プラン」をわかりやすくまとめます。
ステージ別 治療プラン
腎臓病(慢性腎臓病:CKD)はIRISステージ1〜4に分類され、ステージが上がるほど腎機能低下が進行しています。
ステージ1の特徴、早期
- 血液検査の異常は軽度
- SDMAの軽度上昇
- 尿濃縮力の低下が出始める場合
- 目立った症状はほぼなし
治療・管理のポイント
- 定期検査(3〜6ヶ月おき)
- 適度な水分摂取を促す
- 可能であれば早い段階で療法食を検討
- 高血圧やタンパク尿があれば治療開始
- 高血圧 → 降圧剤(アムロジピン等)
- タンパク尿 → ACE阻害剤/ARB
ステージ2特徴、軽度~中度
血液検査(クレアチニン・SDMA)の明らかな上昇食欲や体重の変化が出ることも。多飲多尿が増える。
治療・管理
- 腎臓病療法食に切り替える(治療効果が最も大きい)
- リン値が高ければリン吸着剤を追加
- 血圧の管理(降圧剤)
- 蛋白尿があればACE阻害剤/ARB
- 定期的な点滴(必要な場合)
- 3ヶ月おきの健康チェック
ステージ3特徴、進行期
- 老廃物が体内にたまり症状がはっきり出る
- 食欲低下、嘔吐、脱水、体重減少が目立つ
治療・管理
- 腎臓病療法食の徹底
- 自宅での皮下補液を積極的に実施
- 吐き気止めや胃腸薬(マロピタント、ガスター等)
- リン吸着剤の使用を強化
- 高血圧の管理
- 必要に応じて造血剤(エリスロポエチン製剤)
- カリウム不足があればサプリ補給
- 2ヶ月に1回の検査
- 生活の質(食欲・活動)を重視したケア
ステージ4の特徴(重度)
- 腎機能が大きく低下
- 食べられない・嘔吐・貧血・無気力などが顕著
- 集中的なケアが必要
治療・管理
- 毎日の皮下補液または入院での点滴
- 強力な吐き気止め、胃腸薬
- 食欲刺激剤(ミルタザピンなど)
- リン吸着剤の最大限活用
- 造血剤
- 合併症(電解質異常・貧血・高血圧)の積極治療
- 痛みや不快感を抑える緩和ケアも検討
- 動物病院での頻回チェック(1〜2週間ごと)
補足:合併症に応じた追加治療
高血圧
タンパク尿
- ACE阻害剤(ベナゼプリル)
- ARB(テルミサルタンなど)
貧血
吐き気止め
- マロピタント
- オンダンセトロン
- プロトンポンプ阻害薬 / H2ブロッカー
ステージ別ケア
猫の腎臓病の治療は「ステージに応じて何を優先するか」が大切です。
- ステージ1〜2:進行を遅らせる
- ステージ3:症状を抑えて生活の質を保つ
- ステージ4:苦痛を和らげつつ可能な範囲でケア
まとめ
猫の腎臓病は高齢になるほど発症率が上がる病気ですが、早期発見と適切なケアによって余命や生活の質を大きく改善できます。
特に7歳を過ぎたら年に1〜2回の健康診断がおすすめです。
血液検査と尿検査は早期発見に非常に有効です。
飼い主が症状に敏感になり、定期的に検査を受けさせることが何より大切です。